専攻科の選択科目

量子力学II(AP1/AE1)

この授業はE科大嶋先生ご担当の「量子力学 I 」の続編に相当します。 量子力学 I が既習であることを前提に講義を行いますので、 必ず事前に量子力学 I を受講(または相当する内容を学習)しておいてください。 ただし実際の授業では量子力学 I の内容の復習も交えながら話を進めますので、 量子力学 I の理解に多少穴があっても大丈夫です。 むしろ量子力学 I が良く分からなかったという人も、II を学ぶことで理解が深まることを期待しています。

言うまでもないことですが、 量子力学は、原子・分子の世界を本格的に理解するには必須の知識です。 どれくらい完璧に身につける必要があるかは人それぞれでしょうが、 いずれにせよ原子・分子にかかわる分野の人は、 この授業程度のレベルの量子力学は一度は学ばなければなりません。 「学んだがあまり身についていない」というのと「一度も学んだことがない」は同じではありません。

量子力学 I で主に扱ったのは、 単純で分かりやすいけれども非現実的な系(箱型ポテンシャル、1次元の散乱問題、調和振動子など)でした。 これらはいずれも現実世界にそのままあるわけではなく、 いずれも数学的なおもちゃのようなものでした。

この量子力学 II はいよいよ現実の世界を相手にします。 この授業の前半の目標は水素原子を理解することです。 水素原子は現実の世界に存在し、なおかつ量子力学で扱ったとき厳密に解ける唯一の系として知られています。 しかもそれは最も簡単な原子であり、 それを理解することはより複雑な原子を理解することにつながります。 さらに分子・結晶・金属といった物質はすべて原子の集合体ですから、 水素原子を理解することはこの世界に存在するあらゆる物質を理解することの、 最初の重要な一歩となります。

 

水素原子というのは陽子の周りを電子が回るという2体の系です。これは太陽の周りを回る惑星の運動と同じです。 働く力はクーロン力と万有引力という違いがありますが、数学的にはどちらも距離の2乗に反比例する引力です。 すなわち、水素原子の量子力学というのは、惑星の運動の量子力学版なのです。 惑星の運動では角運動量の理解が重要な役割を果たしました。 水素原子でも同じです。 したがってこの授業ではまず、量子力学版の角運動量の数学的性質の理解から話を起こし、 次に水素原子へと話を進めます。

授業中盤の目標はスピンの理解です。 角運動量の概念を一般化することで電子スピンという重要な概念が理解できます。 電子スピンはパウリの排他原理や統計力学と深い関係があり、 粒子が多数集まった系を理解するには必須です。 もし仮に電子がスピンを持たなければ、 原子の周期律は存在せず、この宇宙の姿は今とは全く違ったものになったことでしょう。

この授業の後半の目標は近似法です。 現実に存在する系で厳密に解けるのは水素原子だけですから、 近似法を身に着けなければ量子力学を現実世界に応用することは全くできません。 したがって近似法は全員が必ず学ばねばならない話題です。 この授業では、時間の関係で「定常状態の摂動論」のみ説明しますが、 変分法という近似法も極めて重要なので、各自補うことを強く薦めます。

量子力学の問題は難しいものが多いのですが、 講義内容を理解する上で演習は極めて有効です。 残念ながら授業時間の中で演習時間を確保するのは困難なので、 授業中に解答つきの演習問題を配布します。それを各自自習してください。 分からない場合は積極的に質問に来てください。